癒し。
コロナ関連も手伝って人手不足が深刻になってきている。
私がまな板の前に立ち、魚を捌いているといえば、わかってもらえるであろう。
久しぶりだから集中しないと…なんて
口をへの字にして黙々とハマチの皮を引く様はまさに魚屋さんだ。
ただ、頭の中は、値上げや雇用、コストにコロナなど…問題の魚群リーチである。
ピーンと張りつめたバックヤードでピリリリ…と携帯電話が鳴る。
時間は朝の9時30分。
隣でお刺身へ商品化している鮮魚チーフのスマホからだ。
画面を確認して一言…「んっ?ハナ(仮)からや…」と。
ハナ(仮)とは彼の長女である。
彼が入社してきた時、結婚はしていたが子供がいなくて
「3人は欲しいんですけどね…」なんて話をするも、なかなかできずにいた。
数年後、待望の第一子の誕生で私も自分のことのように喜んだのを記憶している。
父親と同じぐらい喜んだ私なんだけど、全然なついてくれずに
会えばワンワン泣き叫び、「声のデカい嫌なおっさん」という位置づけであろう。
聞けば小学校5年生にもなってて、へぇぇ…って、いやいや、言うてる場合か!
何かあったら電話しておいでや!と伝えてるらしく、おいおい…大丈夫かいな…
うちは息子ばっかりで女の子おらんからようわからんけど、心配になるやん…
「な、何かあったんちゃうんか?はよ出たれや!はよ、はよ!」と促す。
包丁の手が止まり、電話している様子を固唾をのんで見守る私。
一瞬緊張が走ったが、彼の表情が徐々に笑顔に変わるので、ほっと胸をなでおろす。
「おいっ、なんて電話やってん?」
「えっ、うどんが9円やけど、買った方がええかな?って…」
お母さんに買物を頼まれてスーパーマーケットに行ったら
うどんの特売が目に入り、買おか買おまいか悩んだ結果、電話したという流れ…
なんじゃそれ!である。
心配して損したわ!えっ、な、なんて…?
何かあったらの何かが「うどん9円」?ま、安いけどや、めっちゃ…
そんなもん、すっと買わんかい、すっと!
「わはは…笑かしよんな、ハナ。ほんで、買うたんか?」
「それがね、ええよ!買ってええよ!言うたんですけど、
お母さんに頼まれてへんし、やっぱやめとくわ!って…」
なんじゃそれ!である。
女性特有のアレか!
晩ごはん何食べたい?って聞いてくるから「うーん、中華」言うたら
「えー、中華…?」とかって思っきり嫌な顔して難色を示される
聞いてきといて どないやねん!ってなるアレやないかい!だ。
もうね、私の頭の中にある山積された問題が一気に全部ぶっ飛んだ。
子供ってのは、やっぱり宝やわ、かけがえのない宝。
彼女のこれからを考えると、私の抱える問題なんてちっぽけなもんである。
はあぁぁぁ…ほんま癒しやわぁ。
とにかく、彼女が今よりもっとたくさん笑える未来にするためにも
鮮魚チーフはもちろん私自身も包丁に力が入ったのは言うまでもない。
ハナよ、知らんまにしっかり者の女性に成長しとるやないかい。
さらにええ女になって声のデカいおっちゃんをビックリさせてね。
2022/07/28
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