秋刀魚の刺身(中編)。
秋刀魚の刺身が登場しないまま、前回の続き…。
私がごちゃごちゃ言うもんだから、
るるぶ旅行に嫌気のさしていた妻がついに怒りをぶちまけた。
「そないに怒らんでもええやろ!たかだか”うに”と”いくら”で!」
「俺が怒ってんのとちゃうわ!鮭の代わりに怒ってんのや!いくらいうたら鮭の子やぞ。鮭がどんな想いで腹に入れてたか!それをやな?、腹いっぱいやからって…。美味しく食べたるんが筋やろ!筋子だけに…」
「うるさいわ?!いくら”うに丼”が食べたいからって…」
「ややこしい言い方すな!」
烈火のごとくせめぎあうこと数十分。
気がつけば、今度はお互い黙秘を決め込んで、しずかなること林のごとし。
気まずい雰囲気のまま、店をあとにし、
新婚とは思えぬ微妙な距離間を保ちつつ、電車でホテルへ向かったのだが…。
運悪くまたもや事件が起きた。
「扉は手動でっせ」事件。
降りるべき駅に到着し、ドアの前に立つが、
まったくをもって開いてくれる気配がない。
「あれ?なんでや?ちょっとしたドッキリか?」
オロオロしてるうちに無情にも発車オーライ。
私の後ろで妻が阿修羅の顔になっているのが容易に想像できる。
怖すぎて振り向けない。
「るるぶには何にも書いてへんな?」などと独り言で私の無実を猛アピール。
そうこうしてるうちに次の停車駅に到着。
一人の男性が、ドアの前に立ち尽くす我々を払いのけるかのように割って入り、
いとも簡単に自分の力でドアを開けてのけた。
「えっ?自分で?そんなルール知らんっちゅうねん」と笑ってみせたが…である。
駅を出れば外灯は数えるだけしかなく、月明かりのみに照らされる2人。
駅員さえいないこの状況で残された選択は
「歩いてホテルへ」もしくは「走ってホテルへ」の2択。
北海道の一駅分は、距離にして軽く「堺?天下茶屋」の急行クラス。
後者はともかく、歩いていけるかな??とあれこれ考えてるところへ…
それは、もう、今まで聞いたことがない切れ味抜群の口調で…
「次、どうすんの?」と。
一気に形勢が逆転。
「いや…、あれや…、大きい道路まで行ってタクシーを拾うねん」
「流してる訳ないやろ!」の正論に不安を抱きながら歩き始める。
(つづく)
2008-08-30