誰か。

忘れられない食べ物って何ですか?

そう聞かれて即答できる人は少ないように思う。

なぜなら、昨日食べたものさえ

「んっ?えーっと、何食べたっけ?」と覚えてないほど

食事っていうのは呼吸をするのと同じレベルで

日常に溶け込み、忘れられていくようなものだからだ。

では、言い方を変えて…、ある料理に対して、

例えば、ハンバーグについてエピソードはありますか?

なんて聞かれると、ほとんどの人が

えげつないぐらい鮮明に具体的な記憶が蘇り、

あらっ、忘れられへん食べ物やん!ってなったりする。

うーん、言い得て妙っていうか、不思議な感覚である。

結局、誰にでも「忘れられない食べ物」ってのがあって

そこには十人十色の壮大なストーリーが隠されている。

いやね、こんな流れになったのは、お惣菜の

「なすのはさみ揚げ」を目にした瞬間、「はさみ揚げ」括りで

30年ほど前の遠い記憶が、鮮明に蘇ったのだ。

はじめて女性に手作りしてもらった料理である。

「ワシは仏さんか!」ぐらい女性用かな?小さな茶碗に

盛られた白ごはんと食べた「れんこんのはさみ揚げ」は

えっ、一発目から、はさむやつなん?ムズいんちゃうん…

ってか、不味くはないけど、旨い!っちゅうか何ちゅうか…

なんてね、ふと感じたこと思ったことを言葉になんてできず、

とにかく、「うまいわー」とか「へえぇ、凄いなぁ」とか

心にもないことを振り絞って言った19の春の夕暮れ。

それが、現在の私の妻で…

なんて言えばキレイなんだけど、ち、ちゃうわ…どないしよ…。

えーっと…、昔々、私が修行していたスーパーマーケットで

いや、どんだけ間違うねん!の失敗ばかりのパートさんがいて

毎度のごとく海老の解凍を間違え、これ以上間違えたら殺されるで!

と心配になり、身代わりとなった私が「僕が間違えました!」って

チーフへ報告すると、烈火のごとく執拗に怒ってくるもんだから

「わかりました!みな、買います!」と、若気の至りで言い返し、

当時一人暮らししてた妻んとこへ アホほどの量の海老を持って行き

「えらいもんで、私です!って白状せんと、ペコッとだけして帰ったわ」

なんて、パートさん殺人事件を回避した話をしながら食べたエビフライは

今でも忘れられない妻との「“エビ”ソード」である。

さて、このように「忘れられない食べ物」というのは

料理そのものではなく、背景や空間などとごちゃ混ぜで記憶している。

もっというと、「誰か」が存在しているようだ。

ひとりで作り、ひとりで食べた料理なら誰も…の場合だとしても

誰かに教えてもらった料理…とか、誰かを想って食べてたりとか…、

そもそも、その素材は誰かの手によって作られたりとかで

間違いなく「誰か」が大きく関わっているのである。

「いただきます」

「ごちそうさま」

命をいただくから…などの深い意味があるだろうけど、

うーん、「誰か」へ言うてる場合がほとんどのような気がする。

そこに「日之出屋のスタッフの誰か」が登場したもんなら、

「にいちゃんがな…」って食事中の会話にでも登場したもんなら、

どんどん忘れられていく…切なくて尊い仕事をしてるうえで

こんなに嬉しいことはない。

2023/06/19

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  1. ヤッホー!もとちゃん…こんなのでも良いですか? より

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