カレー。

「にいちゃん!渡したいもんあるから、あんたが配達してや」

何やら意味深な言葉を残し、帰られる愛すべきおかあさん。

仲の良かったご主人がお亡くなりになり、元気になってもらわな…と思ってたところだ。

”何の話しよ…”頭の中を整理しながらマンションの階段をのぼる。

隣の部屋からだろうか、カレーの香りが昼食にまだありつけていない私のお腹を刺激し、

おもわず「腹減った~」って言いそうになるのをグッとこらえ、

「まいど~!」って、おかあさん家の呼び鈴を鳴らす。

「来たか、来たか…。まあ、あがりや…、んっ?隣、カレーやな」

「ははは…、俺も思たわ。で、お父さん、どこなん?」

とりあえず、仏壇に手を合わすと、そこにはえら若のお父さんの写真。

「なっ、お父さん、若い時、男前やろ。あんたといっしょや」

「ほんまやな」って振り返ると、テーブルにはすでにアイスコーヒーが注がれている。

お孫さんの話がほとんどで、手術を繰り返して最近しんどいねん話になりかかった時

「せや、あんたに渡すもんがあんねや。忘れてたわ」

そう言って、奥から大きめの紙袋を持ってくる。

「お父さんの形見や。あんたが着たってな」

手渡されたのは、アディダスって書かれていたジャージが2着。

ま、まあ、身長の問題とかはね、全然気にしなくっていいんだけど、

いや、その、形見とかって言われると、なんつうの、まあまあの重量感がね、うん。

「ええの?お孫さんからのプレゼントなんやろ」

「ええねん。あの子らも、うちがにいちゃんのファンって知ってるし…」

「お、おぉぉん…。ほな、遠慮なく着させてもらいます。まあ、元気出してな」

「う~ん、また今度手術やさかいな…。お医者さん、辛いもん食べたらアカン言うねん」

「えっ、そうなん、辛いもん好きなんや?」

「辛いもんが好きっていうか、まあ、カレーとかカレーうどんとか…」

いや…、とかって…、カレーやん。

途中、腕に注射の跡がいっぱいあって「なんで?」って聞くと

新人の看護師さんが失敗が多いらしくって何回も打たれたりするんだけど、

自分のお孫さんも看護師さんで「あの子らも失敗してきたことやろうから…」と

いっさい文句も言わず応援したってんねん!っていうめっちゃええ話なんかもしながら

長いこと話してたんだけど、お互いね、おかあさんも私もお互いともね、

カレーのことで頭がいっぱいやったな…って、そう思った。

おかあさん、はよ治してカレー食べて元気出してな。

しかし、カレーのポテンシャル、凄まじいな…。

2015/09/15

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